BLというフィルタで、世界は輝く

「東京ポッド許可局」2009年8月の<BL論>が面白かったので、今さらながらおさらいを。
(発言者の特定が間違っている箇所があると思います。すみません)


話のはじまりは、ラーメンズ
マキタさんが「ラーメンズのライブ行ってて、これって“BL”かと思った」という発言に
まず、<BLとは何か>の定義が挙げられます。
いわく、
・まんが・アニメの中で描かれる同性愛がBL。
・ファンタジーとしての同性愛。
・原作(一次創作)で既に同性愛関係が描かれる=BL 二次創作で描かれる=やおい
・楽しむのは完全に女子(=腐女子


BLを楽しむ欲求は 昔からある「DNAレベル」のもの。
そんなBL的の成分が多いものはヒットする、という。


ラーメンズでいえば、<かっこいい×不細工><天才×天然>のカップリングは「鉄板」。
マキタさん「俺は自分の中に腐女子的なものを見つけてしまった。
      前からラーメンズが好きだという気持ちに、あらがってた」


タツオさん「女子は面白い・面白くないじゃなくて、ラーメンズのあの関係性に“きゅん”てくるのよ」
マキタさん「絶対そうなのよ。ラーメンズの小林の書いた台本の面白さじゃなくて、
      あの二人の関係性なのよ、絶対に」

1本20分に及ぶコントの中で、あり得ないほど仲の良いラーメンズ
タツオさんとマキタさんは、それぞれその関係性にきゅんとする気持ちが理解できる
“乙女回路”が自分に内蔵されていることを自覚。
タツオさん「カシマさんと局長笑いますけど、それ全人類共通だと思いますから。
      (他の人が気付かないのは)きっかけがないだけだと思ってる。
      マキタさん たまたまそれに気付いたきっかけがラーメンズだった」


ラーメンズの他にBL的に分かりやすいお笑いコンビとして挙げられたのが、オードリー。
2009年M-1ファイナリストのうち、関係性を見せていたのは彼らだけだった。
「関係性の妙、だと」
「うん。じゃあ オードリーの何がハートを掴んでるかというと、あれ。
 “嫌いだったら お前と漫才やってないよ”っていう。あの二人の仲の良さにきゅんとくるんです。
 仲のいい男性同士を見るときゅんとするんです、潜在的に」
ここで、松本ハウスの人気についても触れられます。


60万人が訪れ、3日間行われるコミケ
しかしそのうち2日は女性向けという現実が。
「オタクって男のイメージありますけど、圧倒的に女性が多い。声は出さないけど確実にいる。
 売る人・買う人、その2日間のうち40万人、全部が全部じゃないけど
 わざわざその日に行ってやおい本を買う人がいる。
 商売になるレベルの分母なんだよ」
「もうBL的な成分が入ってないと売れないって感じがするよね。ちょっとね」


また、BLにおいては二人の関係が逆転することもあるという話題に。
「片桐受×小林攻、その逆もある」
「あるんですよ、20分のコントの中にもそういう逆転する瞬間があるんですよ。
 その瞬間ね、俺もちょっときゅんとした」
「その見方って、単にネタがどうだっていう分析とはまた別の面白い見方だね」
カップリング(二人の男を抽出すること)についても、さまざま。
<イケメン×不細工>しかないの?という発言に
「そんなことはない。<不細工×不細工>でもいい。
 ジャニーズの支持層、いるじゃないですか。
 潜在的に分かってないだけでカップリングが無限にできるから、人気がある。
 組み合わせ次第で無限にできるでしょ」
リップスライムもBL的だぞー」
CHAGE&ASUKAなんかもそうですよ」
「それでひとつの歴史が紐解けるね。BL的解釈でね」


そこで、話はジャニーズから歴史へ。
「信長攻の…」「なんかそれ、兵糧攻めみたいな感じするな」という笑いもありつつ、
「要は、光秀が信長を倒したっていうのは、あれは 逆転した瞬間っていう」
「そう」(略)
「もう『BLで紐解く日本の歴史』っていう本があるくらいだから」
「そうなんだ もう?」
「あります」
「他、有名どころは」
「信長が生きてる時代の信長と秀吉。良いライバル」
「いいですね」
「軽口をたたきあってるけど、いつも一緒にいる二人、最高です」
「叩き上げの信長で、秀吉がエリートでしょ」
「対照的な感じ」
「はいはい」「わかるなー」
そして次なる舞台は…
角栄攻の… 政界とか」
「だから福田ですよね」
小沢一郎攻の、橋龍みたいな」

「いつもケンカしたりかばったりとか、
 ある男性が一人の男性のことを意識しているという現象が起きた時、
 それはもう読み込みが可能なんです」


力石とジョー、猪木と馬場(ちなみに、猪木受らしい)、王×長嶋、王×張本、長嶋×ノムさん
挙げられていき…
「これはいわゆる“生もの”というジャンル」
「だめだよ、BL学園とか言っちゃ」
「あ、もうそういう言葉ありますから」
「あ、本当?」


テニスの王子様』『スラムダンク』… 今ジャンプを買っているのは圧倒的に女子。
「週刊少女ジャンプ、です。オタクの女子にエサをまく連載の仕方をしてるんです。
 隠しテーマとして編集さんが(すすめる)」
「いやだから、お笑いの現場でもそういうふうに言ってくるじゃない。アドバイスの人が、たとえば、
 裏メッセージとしてもうちょっとBL的にというのが。
 仕込むよな。じゃないと売れ線にならないよな」
「ネタ見せなんてある程度いくとネタの面白い・面白くないのじゃなくて、
 関係性を見せた方がいいとか、どっちかが主導権を持つとか、かわいがるとか。
 あるよね、そういうの」


「目からウロコが落ちたような気がしたのよ、ラーメンズ見て。」
 これが、これだけウケていて、一定の支持層があって、そこをちゃんと掘って、自分たちで開拓してるわけですよ。
 で、なぜこういうことが成り立ったのかなって。
 例えば、センシティブなネタをやってる上質なコントをやる人たちってかつてずっといたんですよ。
 必ずその時代時代、いたんですよね。
 だけどラーメンズ的な成功例ってなかった」
「まあ、イッセー尾形くらいですよね、一人でやってるけど」
「一人だけど。じゃあなぜ(ラーメンズが)お客さんを がっつり掘り起こしてできたのかと、思った時、
 漠然と“あ、BL”と思った瞬間に 本当に目からウロコが落ちたの。
 そういう層、その潜在的な意識を持った人たちに、絶対に訴えかけることをやったんだよ、絶対に」
「メディアに出る時期を限定して、あと一切メディアに出ないという戦略をとることで、
 ひとつの作品として完結させたわけです、まず。
 で、ずっと支持されてるっていうのは、要するに、みんなの好きな同人誌がずっと出てるってことなんですよ。
 それだけ求心力の強い関係性だったってこと。
 じゃあ一方でおぎやはぎはどうかというと、おぎやはぎっていうのも、
 ひたすらやはぎがおぎをかわいがるんですよ。甘い、あの関係性ね」
「まあ二人、仲いいよね」
「っていう体を見せてるじゃないですか。女性に人気あるんですよ」
「二人でいちゃいちゃしてるのを見るのが好き、みたいな」
「だけど、テレビに出過ぎてるから、そういう同人的な活動はないわけ。
 ラーメンズは裏おぎやはぎですよ」


お笑いのBLへの親和性が高い理由は、<ボケ×ツッコミ>に<攻×受>の関係が読み取りやすいこと。
「ただこれ、理解できない人には一生理解できないんだよ」


「聞いてる局員の人たち、鼻で笑ってたら悲しむべきことだと思う。
 もう一つのパラレルワールドがあるくらい巨大なものなんですよ」
「そうだね」
「そのフィルター一枚通すだけで、世界の見え方、まったく変わってくるんで。
 俺は知らないより知ってる方が面白いと思うし、貪欲にそういうものを発見してもらいたいなと思うんですよね」


そして紹介される、腐女子たちの読み込み力の奥深さ。
「昔からある議論でね、“鉛筆と消しゴム、どっちが攻受か”みたいな。
 そういう議論がずうっとあるんですよ。
 もう生き物でもキャラクタ−でもなくて そういうものでも全然いけるんです。
 何か二つあれば、どんなものでも関係性を読み込めるんです、あの人たちは本当に」


たとえば、“ライターとタバコ”。
タバコは、常に消えていく存在。いるけれど、いない。そんな属性を
「そんなコンプレックスを抱えている僕」として擬人化する。
一方ライターは、タバコを消していく存在。そういう見方をすれば攻だけれど、
オイルがなくなると消えてしまう存在でもあること、100円ライターであれば安さは、その関係を逆転させてしまう。
そんなコンプレックスが関係性を作り上げていく… 

「四次元世界と言っていいほどのフィルタが存在することを、男性には知ってほしい。
 それくらい世界が輝いて見えますよ、僕には」

よしながふみ対談集 あのひととここだけのおしゃべり

よしながふみ対談集 あのひととここだけのおしゃべり

漫画論、BL論として優れた読み物だと思います。力一杯おすすめ。