「よっぽどスケベやと思う。西川美和は」笑福亭鶴瓶(『SAVVY』7月号)
西川美和監督の「ゆれる」を見て 後々まで心に残ったのは
兄弟である猛(オダギリジョー)と稔(香川照之)の息詰まるやりとり、
よりもむしろ
猛が幼馴染みの女性・千恵子(真木よう子)とセックスするときに口にした科白、
「舌出せよ」だった。
性描写をイメージ的なものだけに終わらせず
たった一言の科白だけで 猛の人間像を垣間見せてしまうところが ただもう上手い。
映画が始まってすぐのこのシーンで
すでにこの映画の監督がスゴイ人であることが分かってしまった。
兄弟間の密度の高い人間関係が中心であるこの映画で、千恵子は いうなれば“きっかけ”に過ぎない。
物語が始まってすぐ死んでしまう。
けれど、彼女の登場するシーンがどうにも忘れられないのだ。痛々しくて。
「嫌いなのって、しいたけだよね?」と
セックスしたことで 千恵子が 猛の領域に踏み込み過ぎてしまう感じ。
猛が帰った後、だらしない切り口を見せて まな板の上に転がっているトマト。
猛が残した煙草の匂いをかぐ 千恵子の仕草。
一連の演出が とにかく上手い。
これは、「ディア・ドクター」に関するインタビューを受けた笑福亭鶴瓶のもの。
確かに、そうなのだ。
患者である八千草薫と医師である笑福亭鶴瓶の間の
なんとない雰囲気は、そうにも思える。
鶴瓶さんは何かの番組で「舌出せよ」についても言及されていた。
ああ、やはり。と、嬉しくなった。
西川監督の映画は、
描かれているものに二重三重に様々なものが投影されていて
言葉にしようとすると いつもうまくいかない。
ひとつの切り口に絞ると、抜け落ちてしまうものが多くて
もったいない気すらする。
「ディア・ドクター」をも同じで、
まず書こうとすると 笑福亭鶴瓶演じる医師に焦点をあててしまうのだけれど、
その物語を縫うように 静かに展開している
ちょっと艶のある物語も 見過ごせないのだ。
西川監督のスケベさ、私はかなり好きだ。
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美しき主婦のふくらはぎと幼い少年の頬が触れる夏の午後。この中の一編「女神のかかと」もスケベです。