「よっぽどスケベやと思う。西川美和は」笑福亭鶴瓶(『SAVVY』7月号)


西川美和監督の「ゆれる」を見て 後々まで心に残ったのは
兄弟である猛(オダギリジョー)と稔(香川照之)の息詰まるやりとり、
よりもむしろ
猛が幼馴染みの女性・千恵子(真木よう子)とセックスするときに口にした科白、
「舌出せよ」だった。


性描写をイメージ的なものだけに終わらせず
たった一言の科白だけで 猛の人間像を垣間見せてしまうところが ただもう上手い。
映画が始まってすぐのこのシーンで
すでにこの映画の監督がスゴイ人であることが分かってしまった。


兄弟間の密度の高い人間関係が中心であるこの映画で、千恵子は いうなれば“きっかけ”に過ぎない。
物語が始まってすぐ死んでしまう。
けれど、彼女の登場するシーンがどうにも忘れられないのだ。痛々しくて。


「嫌いなのって、しいたけだよね?」と
セックスしたことで 千恵子が 猛の領域に踏み込み過ぎてしまう感じ。
猛が帰った後、だらしない切り口を見せて まな板の上に転がっているトマト。
猛が残した煙草の匂いをかぐ 千恵子の仕草。
一連の演出が とにかく上手い。


「(八千草薫に)点滴する場面、あれ完全に“セックス”ですよね。34歳のおなごが…よっぽどスケベやと思う。西川美和は」


これは、「ディア・ドクター」に関するインタビューを受けた笑福亭鶴瓶のもの。
確かに、そうなのだ。
患者である八千草薫と医師である笑福亭鶴瓶の間の
なんとない雰囲気は、そうにも思える。


鶴瓶さんは何かの番組で「舌出せよ」についても言及されていた。
ああ、やはり。と、嬉しくなった。


西川監督の映画は、
描かれているものに二重三重に様々なものが投影されていて
言葉にしようとすると いつもうまくいかない。
ひとつの切り口に絞ると、抜け落ちてしまうものが多くて
もったいない気すらする。


「ディア・ドクター」をも同じで、
まず書こうとすると 笑福亭鶴瓶演じる医師に焦点をあててしまうのだけれど、
その物語を縫うように 静かに展開している
ちょっと艶のある物語も 見過ごせないのだ。


西川監督のスケベさ、私はかなり好きだ。



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美しき主婦のふくらはぎと幼い少年の頬が触れる夏の午後。この中の一編「女神のかかと」もスケベです。