満島ひかるの白目を見よ。「愛のむきだし」

先日、初対面の人に趣味を聞かれ
「映画を見るのが好き」と言ったところ
「最近の映画で おすすめあります?」と言われてしまった。
こまった。苦手な質問だ。
その時 とっさに言ったのが
「そうですねえ “愛のむきだし”っていう映画が」
だったのだけれど、即後悔。
その方は「おくりびと」が良かったと言っていたので 明らかに方向を間違えた。
しかも 騒がしい場所だったのと 私の滑舌が良くないせいで
聞き返されて3、4回大声でタイトルをいうはめになってしまう。
大声だと、ちょっと恥ずかしい。
「むきだし、ですっ」って。


もう おそらくたくさんの方が、ネット上で感想を書かれているだろうので あえて書かない。
というよりも私の手には負えない。
私の知識では処理しきれないほどの情報が詰め込まれているし、「紀子の食卓」「自殺サークル」など未見なのだ。


けれど、言わずにはいられない。
この237分は すごかった。
途中の休憩は なくてもいいと思ったし、早く続きが見たいと思ったし、
映画が終わりそうになると「終わるな。終わるな」と思っていた。


それは、
徹底的にエンターテイメントな筋書きに
徹底的にB級なネタを散りばめた、
その作りだけでも単純にオモシロ要素満点だから
というせいもあるのだろうが


それらを 237分の中に一部の隙もないほど
びっちりと つめこんでいるからだろう。
ノローグ、クローズアップ、テロップと、画面には常に何らかの情報が 満ち満ちている。
行間など、一切読ませないのだ。
映画が疾走する。
ただ目を開いて椅子に座っていれば、目の前を凄い勢いで たくさんの面白いものが
通り過ぎていく、という寸法なのだ。



最高に崇高なるもの<神、愛、母、信仰、仲間>を
最高に低俗なもの<パンツ、勃起、レズビアン、近親相姦>で描く。
このたくらみに やられた。
「男の子と女の子が、出会って恋してうまくいく」
ただそれだけの話が なんでこんなふうになっちゃうのだ。


ラストシーンも興味深かった。
物語を終わらせられるポイントは、終盤いくつもあった。でも、どれにも落ち着かなかった。
そのどれもが「キレイな終わり方」「残酷だが 通好みの余韻が残る終わり方」だった。
ようするに、かっこいい終わり方なのだ。
「文学的」などといわれそうな。
でも、この映画は違った。本編と同様、全てを描ききった。
もう文句のつけようもないくらい。続編が作れないくらい。
とっても俗っぽくて、とってもいい終わり方だった。そこも、好きだ。


そして もし見るならば
この映画は ぜひ劇場で見てほしい。
理由は、満島ひかるの浜辺のシーンだ。
あのコリント人への手紙を叫ぶ長い長いワンカット、
遠慮のないクローズアップ、それに堪える満島ひかるの情念。
劇場で見られて良かったと私は思った。
きりきりと見開いた目の あの白目の部分まで、見つめずにいられなかった。
撮影は本番1回だったという。すごい。


…2009年の映画史に残る この映画は、
最近のいわゆる「かっこいい映画」の とことん逆を行っている。
行間を読ませない。
話をきっちり終わらせて 妙な余韻を残さない。
とことん俗っぽい。
でも、すごく面白い。どうしてだ。