中村監督は、悪くない。「チーム・バチスタの栄光」


中村義洋監督が、ちょっと気になっていた。
きっかけは「ルート225」と「アヒルと鴨のコインロッカー」。


藤野千夜の小説が原作の、パラレルワールドに迷い込んだ姉弟を描く
「ルート225」(2005)は、見事だった。
原作の“これはハズしちゃいけない”ところを
繊細にすくいとってくれている、と感じた一作。
たとえば、登場する子どもたち同士の距離感とか、
風景の撮り方とか。
ぱっと見て分かるような凝ったことをしているわけではないのに、
何かワザが効いている。
個人的に、とても好きな一作。
子どもが等身大で、がんばっていて、ほろにがくて。
これ、いい映画です。


そして、私も好きな人気作家・伊坂幸太郎原作の
アヒルと鴨のコインロッカー」(2006)。
映画を見る前にあらかじめ原作を読んでいたので、
そもそも 何故これを映画化しようとするのかが不思議でした。
何故なら、この物語のトリックは、
恐らく “文字で読むこと”を考えて作られているから。
いったい このトリックを 
どうやって 視覚的に効果的に分かりやすく
映像にするのか?
そんな心配が先行する中 見に行ったけれど、
キャスティングのはまり具合もいいし、
トリックは何とか消化されているし、
どうしてどうして 悪くない映画化だった。
性的な部分はほとんどが切られているし、
原作でのいくつかのエピソードが抜けているのは残念だったけれど、
これが「アヒルと鴨」映像化のギリギリの線か、と思わされる出来。
何より、原作は面白いはずなのに
ことごとく下手に映像化される伊坂幸太郎原作映画においては、
現時点で最良の出来ばえではないかと 思った。


中村監督のメジャーデビューと銘打たれた
チーム・バチスタの栄光」。
ベストセラーとなった海導尊の小説が原作の医療ミステリ、なのですが


うーん。
残念な出来。


チーム・バチスタの栄光」は、たぶん脚本がまずい。
原作を変えている部分が、まずい。


唐突なソフトボールシーンや
患者がライブをするシーンなど
うーん、よくわからない。
何より、主役の医者が冴えない感じの男だったから面白いのに
映画では女性になっている。
原作とはトリックも変えられていましたが、これもなあ...。


ただ、調べてみると、
どうやら中村監督としては どうにもならない部分があったようなのです。


監督に依頼が来た時点で、既に医師は男性から女性に変わっていて、
脚本がなかなかあがらなかったため 直しがあまりできず、
製作側から ほぼ病院の中で展開する話なので
屋外のシーンを入れてほしいと言われた... など
こんなに話していいの?と 思ってしまうほど きっぱり
監督自身がインタビューで 語っていました。


そういうことなら、仕方ない。


メジャーな映画は 大変そうだ。
製作委員会 と称して 一本の映画に名を連ねる企業の数の多さに
目眩を感じる時がありますが、
その“罪”の部分を考えてしまいます。
でも、そういう映画が ヒットしてしまうのだものなあ...


だけど、きっと大丈夫。
中村監督の最新作を 楽しみにすることにします。
こんどは 上手くいきますように。