もっと刺繍が見たかったっ「マルタのやさしい刺繍」

夫に先立たれた80歳のマルタが
かつての夢を実現すべく
ランジェリーショップを開く。
しかし、閉鎖的な街で、彼女の夢は受け入れられず...


マルタのやさしい刺繍」は
80歳の女性の奮起と、
彼女に触発されて新しいことに挑戦し始める女性たちを描く
2006年のスイス映画


頑張る女性たちの姿は もちろん魅力的だが
それ以上に 魅力的だったのは、
テーブルの上やお皿の中を見ること。
冒頭に登場するポテトとインゲンらしい朝食や、
女友達同士で街に繰り出した時カフェで注文したメニューなど
おいしそうなのはもちろんのこと、
それぞれを見せることで
きちんと人物や情景描写として効果を発揮させているところが好きだ。
件の朝食は マルタがつつき回しえいて
尋常ならぬ状況を伝えるし、
彼女たちがそれぞれ頼んだメニューの違いは 性格の違いを表してもいる。


この映画に私が好感をいだいてしまうのは、
そんなふうに 科白で説明するだけでなく 見せることで語ろうとする意欲が
感じられるから。
街でマルタの荷物を友人が「持とうか?」というふうに手を伸ばすと
「結構よ」という感じで マルタがちょっと強めに払う、という
カットがあった。科白はない。
ロングで、数秒のことだが、
こういうところも無駄にせず きちんと活かされている。


あえて言えば、
マルタのつくるランジェリーや
刺繍の良さをもっと見たかった。
特に刺繍は 遠目にちらっと見えるだけなのが 物足りない。
マルタの手から生まれた品々が
めくるめくように描写されていたら、
マルタの頑張りだけでなく 
品物そのものの良さ(マルタの才能)も人を惹き付けたということが
より描けたのではないかと思う。


マルタを中心に数人の婦人が登場するが、
そのほとんど誰もに「かつて夫に反対されてできなかったこと」がある。
そして、彼女たちの行動に 口を挟むのも男。
そんな男(保守的)×女(進歩的)の対立構造にあえてしたことで
物語はシンプルでわかりやすいものになっている。


ここまで男を悪者にしていると、
男性にとっては見ずらくなってしまうだろうか?


でも、素敵な男性も登場するし、
観終わった後は爽快で、期待を裏切らない良作。だと思います。