* タナダユキ監督No.1映画!「俺たちに明日はないッス」

私がいままで観たタナダさんが監督(あるいは脚本参加)した
映画の中では、これが一番好きっ。
帰り道、エンドロールで流れた「17才」を歌いながら歩いた。
見た映画が良かった時は、
いつも流れていた曲を歌って帰ってしまう。
今回は、映画が終わって席を立ったときから もう歌ってた。
しかも むかし南沙織が歌っていた「17才」、
歌詞もいいのだけれど 銀杏BOYZによるアレンジと歌声が、
ひりひりしてて がむしゃらで
映画に合っていて とてもいいのだ。
ラストシーンの科白のあとで流れると、ぐっときた。


さそうあきらの幻の傑作漫画が原作の、
ヤリたい盛りの17才の童貞少年たちの日々を描く、
もやもやして生々しい青春映画。
そういえば、タナダ監督が描くのは少年少女だなあ。なぜ?


これまで見たタナダ監督の映画は
どこか消化不良だったり、物足りなかったりして
テーマや雰囲気は悪くなくて 好きな形をしているのに
心から「いい!」と思えたことがなかった。
百万円と苦虫女」や「赤い文化住宅の初子」も
決して悪くはないのだけれど、
いずれも 素材やヒロインへの監督の思い入れが強いからか、
少し違う方向に走ってしまったような気がする。
百万円と苦虫女」は
ヒロイン鈴子にまつわる人々がうすっぺらくて
彼女の旅よりも 弟とのエピソードの方が 心に残った。
二人が手をつないで団地に戻っていく長回し、良かった。
赤い文化住宅の初子」は 肝心のところで
初子の態度を原作と変えてしまったところが 惜しかった。
脚本を書いた「さくらん」は、上手く話になっていない感じ。
でも、今回は違った。何が?


この映画は、
物語の中でじたばたしている若人たちを、
冷静に描いていて いいと思った。
彼らに 過度にのめり込むでも茶化すでもない感じが。
それは、タナダ監督が
冷静に彼らを、この物語全体を
見つめているからだろうかと 思ったのだ。


俺たちに明日はないッス」と今までの映画との大きな違いは、
脚本を監督自身が書いていないことだろうか。
タナダ監督はこれまで
自分で脚本を書き 自分で監督していた。
今回は、山下敦弘監督と共に数々のいい仕事をされている
向井康介さんが脚本を書いている。
もちろん物語自体、破綻なくまとめられていて 素晴らしい。
そして向井さんという 他の人が書いた脚本、が
タナダ監督の監督としての力量を引き出したのではないかと感じる。
やっぱり才能のある人なのだ、監督は。


もちろん、俳優もいい。
特に 柄本時生安藤サクラなどは美男美女過ぎないリアリティが
あやうくて とっても良かった。
田口トモロヲも、いいです。


女性監督が男の子の生理を描く映画としては、
「すいか」「めがね」荻上直子監督を思い出す。
「恋は五・七・五!」でも「バーバー吉野」でも
青少年の なまなましい描写があった。
この映画でも 童貞(処女)喪失シーンが
かなり時間をかけて丁寧に描かれる。
見ていて、監督は 演出をどうやって頑張ったのかと
余計なことながら考えてしまった。
でもね、興味深いシーン。
ああ こんなケースもあるのかなあ、と思って。


青春映画にありがちな海の場面も 良かった。
あの瞬間 たぶん世界で一番情けないシーンが出てきて
笑えます。


「今日じゃないと 駄目なんだ! 今日ヤリたいんだ!」
と叫ぶ高校生。
卒業式を迎えて、やっと明日を考え始めた彼を見ていて
生殖を意図しないsexに 明日なんてないんだ、
今日のためにしかものなんだ、と思わされ
タイトルとつながって 腑に落ちた。
そして、がむしゃらな歌声が聞こえてくるのだ。


「好きなんだもの  私は今 生きている」



若者がDTこじらせていて
終始うじうじもやもや焦ったり馬鹿なことしてたりしてて
それを破綻なく描いていて ばっちり楽しめる一本。
ぜひ 散々もやもや感を味わった後に聞く
「17才」の爽快感を体験してください。
おすすめですっ。