*このカオスを見よ 「その日の前に」

昨年見た大林宣彦監督の「転校生 さよならあなた」には、驚かされた。
常に斜めに傾いた画面やくるくると変わるカットなどに
びっくりするのは、まだ早い。
旧作の“性転換コメディ”にとどまらず“生と死”を全面に押し出し
リメイク、などという言葉では収まらない新作を作ってしまっていた。
監督自身の美学に妥協しないさまと それを表現する時に取る方法、
自身の主張を見る側にどんどん押し付けていくところには、
とにかく「若い!」という感想。
あまりに真っすぐで好き勝手やっていて
「青い!」とも言いたいくらい。
監督の暴走ぶりが強烈に印象に残った映画だった。


そんな監督が重松清の小説「その日の前に」を映画化。
死期が間近となった妻と、彼女を支える夫、そして子どもたちの
“妻が亡くなる日まで”の物語だ。
小説を出版された頃に読んだが、まったく真っ当な“感動できる小説”で
これを監督はどう映画化するのだ?と 内心少し心配だった。
予告映像を見た限りでは、懸念していたほど変わった演出は見受けられず
少々拍子抜けしたのだが...
後で分かる。
予告はこの映画のマトモな部分ばかりを集めた、ということに。
マトモな部分、というよりも 一見は監督らしさが薄いカット
という方が正しいだろうか。


映画「その日の前に」は、監督らしさが炸裂した、
もうこれを前にしたら 何にも言えなくなる すごい映画だった。
しかも演出が、前作よりも若くなってる...!


「これは映画ですよ」と 作り物の世界が始まることを告げる
<A MOVIE>から幕を開けると、作り事や仕掛けが満載。
電車の窓から見える景色ははめ込みだし、
雨の映像や嵐の海辺のシーンも安っぽい。
間違った映像も登場する。


宮沢賢治「永訣の朝」が
まるで この物語の柱の部分であるかのように繰り返し登場する。
けれど、原作には かけらも 登場しない。
映画しか見ていない人には 信じられないくらい、まったく。


あいかわらず監督は“エッチ”だし(今村昌平監督は助平だと思う)。


...こんなこと挙げていくと、きりがない。
一言で言えば、カオスだ。
それは特にラスト近くになって顕著になり、
最後の花火のシーンは
生きている者と死んでいる者が混じり合うだけでなく
映像も激しくサンプリングされ、さまざまイメージが錯綜する。


原作のむちゃくちゃな改変、展開の唐突さ、変な映像。
しつこすぎる駅長君の登場。
「おかしいですよ!」と 言いたくなる要素が満載。
実際、おかしいのだ。ヘンなのだ。


でも、賛否両論あるそうですが、
私は今回、支持派寄り、です。


一見ヘン(本当にヘン)でも、分からなくもないヘンなのだ。
すでに「これは作り物ですよ」と宣言されて始まるのだから
合成のチープさも了解済み。
話の改変具合も、ラストのカオス状態で それなりに収拾される。
ただ、なんといっても「カオス」な状態での収拾であるから
おかしいことになっているには 変わりないのだが。


全編、ある意味ブレがない。
映像も物語も、その技法や主張に 一本突き通ったものがある。
...これほど美学を貫かれちゃうと、もう何にも言えません。


今回 私が興味深く感じたのは、
サンプリングの上手さだった。
現在と過去、生きている者と死んでいる者、
伏線と種明かし、などなど
重ねられては去っていく数々のイメージが
増幅していく。
「なんで今これが出てくるの?」と思うところもあるし
なんといっても136分の映画なので
「...長い」と思ってしまう場面もあった。
でも、イメージの膨らませ方は 見事。


私がこれから歌手デビューしてPVを作ることになったら、
大林監督にお任せしたいと 思ったくらい。
でもやっぱり「撮影台本」とかできて、
現場でがんがん変更されるのだろうか。
まあそれも含め、“大林作品”なのだろう。


監督の作品はだいたい見ているけれど、
正直言うと、いままで
大林宣彦監督の映画が好きだという人々の気持ちが
よくわからなかった。
しかもそういう人たちが悉く私の好きな人たちなので
余計に不可解で、ちょっと悔しくもあった。
でも、「その日の前に」を見て、
好きになる人の気持ちが少し分かった気がした。


映画が好きな人が
映画に見ている夢みたいなものが、
たぶん 監督の作品には あるのではないか。
映画に託された瑞々しい希望。映画が好きだからこその破天荒さ。
周囲の眼を気にすることなく自分の信じるところを貫く姿勢。


次作が、興味深く思えます。
70歳の監督は、きっと もっと 若くなって
また新しい映画を 私たちに見せてくれるのだと思う。


下記サイトのインタビューが、面白かった。
大林監督、憎めない。
http://service.okwave.jp/okwave/event/category/758/vol28_01.html

昨年見た大林宣彦監督の「転校生 さよならあなた」には、驚かされた。
常に斜めに傾いた画面やくるくると変わるカットなどに
びっくりするのは、まだ早い。
旧作の“性転換コメディ”にとどまらず“生と死”を全面に押し出し
リメイク、などという言葉では収まらない新作を作ってしまっていた。
監督自身の美学に妥協しないさまと それを表現する時に取る方法、
自身の主張を見る側にどんどん押し付けていくところには、
とにかく「若い!」という感想。
あまりに真っすぐで好き勝手やっていて
「青い!」とも言いたいくらい。
監督の暴走ぶりが強烈に印象に残った映画だった。

そんな監督が重松清の小説「その日の前に」を映画化。
死期が間近となった妻と、彼女を支える夫、そして子どもたちの
“妻が亡くなる日まで”の物語だ。
小説を出版された頃に読んだが、まったく真っ当な“感動できる小説”で
これを監督はどう映画化するのだ?と 内心少し心配だった。
予告映像を見た限りでは、懸念していたほど変わった演出は見受けられず
少々拍子抜けしたのだが...
後で分かる。
予告はこの映画のマトモな部分ばかりを集めた、ということに。
マトモな部分、というよりも 一見は監督らしさが薄いカット
という方が正しいだろうか。

映画「その日の前に」は、監督らしさが炸裂した、
もうこれを前にしたら 何にも言えなくなる すごい映画だった。
しかも演出が、前作よりも若くなってる...!


「これは映画ですよ」と 作り物の世界が始まることを告げる
<A MOVIE>から幕を開けると、作り事や仕掛けが満載。
電車の窓から見える景色ははめ込みだし、
雨の映像や嵐の海辺のシーンも安っぽい。
間違った映像も登場する。

宮沢賢治「永訣の朝」が
まるで この物語の柱の部分であるかのように繰り返し登場する。
けれど、原作には かけらも 登場しない。
映画しか見ていない人には 信じられないくらい、まったく。

あいかわらず監督は“エッチ”だし(今村昌平監督は助平だと思う)。

...こんなこと挙げていくと、きりがない。
一言で言えば、カオスだ。
それは特にラスト近くになって顕著になり、
最後の花火のシーンは
生きている者と死んでいる者が混じり合うだけでなく
映像も激しくサンプリングされ、さまざまイメージが錯綜する。

原作のむちゃくちゃな改変、展開の唐突さ、変な映像。
しつこすぎる駅長君の登場。
「おかしいですよ!」と 言いたくなる要素が満載。
実際、おかしいのだ。ヘンなのだ。

でも、賛否両論あるそうですが、
私は今回、支持派寄り、です。

一見ヘン(本当にヘン)でも、分からなくもないヘンなのだ。
すでに「これは作り物ですよ」と宣言されて始まるのだから
合成のチープさも了解済み。
話の改変具合も、ラストのカオス状態で それなりに収拾される。
ただ、なんといっても「カオス」な状態での収拾であるから
おかしいことになっているには 変わりないのだが。

全編、ある意味ブレがない。
映像も物語も、その技法や主張に 一本突き通ったものがある。
...これほど美学を貫かれちゃうと、もう何にも言えません。

今回 私が興味深く感じたのは、
サンプリングの上手さだった。
現在と過去、生きている者と死んでいる者、
伏線と種明かし、などなど
重ねられては去っていく数々のイメージが
増幅していく。
「なんで今これが出てくるの?」と思うところもあるし
なんといっても136分の映画なので
「...長い」と思ってしまう場面もあった。
でも、イメージの膨らませ方は 見事。

私がこれから歌手デビューしてPVを作ることになったら、
大林監督にお任せしたいと 思ったくらい。
でもやっぱり「撮影台本」とかできて、
現場でがんがん変更されるのだろうか。
まあそれも含め、“大林作品”なのだろう。

監督の作品はだいたい見ているけれど、
正直言うと、いままで
大林宣彦監督の映画が好きだという人々の気持ちが
よくわからなかった。
しかもそういう人たちが悉く私の好きな人たちなので
余計に不可解で、ちょっと悔しくもあった。
でも、「その日の前に」を見て、
好きになる人の気持ちが少し分かった気がした。

映画が好きな人が
映画に見ている夢みたいなものが、
たぶん 監督の作品には あるのではないか。
映画に託された瑞々しい希望。映画が好きだからこその破天荒さ。
周囲の眼を気にすることなく自分の信じるところを貫く姿勢。

次作が楽しみ。
70歳の監督は、きっと もっと 若くなって
また新しい映画を 私たちに見せてくれるのだと思う。


下記サイトのインタビューが、面白かった。
大林監督、憎めない。
http://service.okwave.jp/okwave/event/category/758/vol28_01.html