イーストウッドも好きだった「沓掛時次郎 遊侠一匹」

母方の叔父にあの山中貞雄を持つ
映画監督・加藤泰
山中貞雄監督作品と共に、加藤泰監督作品も
広島サロンシネマにて集中的に上映されています。
今回見たのは「沓掛時次郎 遊侠一匹」。
加藤泰監督の代名詞にして最高傑作だとか。


渡世人・沓掛時次郎は 一宿一飯の恩で斬った男・三蔵から
妻・おきぬと息子・太郎吉を託されます。
一家の柱を亡くした母子まで追われる身となったため
時次郎は二人を連れて旅を続けるのだが... という物語。


恥ずかしながら私は殆ど知識がないため
時代劇と股旅ものと任侠ものの味わいの妙、とか
俳優の楽しみ、とか
知識から深く見ることができないのがとても残念です。
それでも、非常に面白く見ました。


何も知らないながら、
さっそく冒頭に登場する「寅さん」ではない渥美清の口上には
「おっ」と思わされました。
その渥美清演じる朝吉と 中村錦之助演じる沓掛時次郎とのかけあいがあり、
キャストとスタッフクレジットが重なるのですが
いちいち画が決まっていてニクい。
その後に続く海辺での殺陣もカッコいい。
画面への海の入れ方、遠近法が効果的な構図など、見惚れました。


そんな「動」的な展開の前半から、一転 後半は「静・情」的な物語へ。
いいシーンばかりなのですが、
訳あって母子と別れた時次郎が
事の次第を「自分の知り合いの話なのだが」と断って
宿の女将に話すシーンも印象的でした。
炬燵に入ってる時次郎の向かいには行灯が灯っています。
確かかなり長回しのシーンで、時次郎が語る間ずっと灯る灯りは
なんだか、時次郎の消えない思いのようで、
見えないおきぬの姿をそこに見ているようで、
なんとも言えない情緒を感じました。


映画の前半に、
朝吉を殺され 怒った時次郎が敵を斬るシーンがあります。
陽気だった朝吉が殺されるという落差ゆえに一層深い悲しみ、
あれだけ斬る事を避けていた時次郎の豹変、
そして ある種のカタルシス... 
この感じはどこかで経験したことがあるなあと思っていたら、
この映画をイーストウッドが大好きで
自身の監督作に引用したことがあるとか。なるほど。
こんなエピソードからも、「沓掛時次郎 遊侠一匹」のすごさが伺えます。


この他にも、柿、草履、だるま、そして櫛と
小道具の使い方も上手。


...自分の勉強の足りなさを感じながらも、
この映画を見る事ができる嬉しさを感じました。
広島サロンシネマで、2008年12月19日まで上映中です。ぜひ。