20代の若者が撮ったとは思えない...!「人情紙風船」

天才と言われる映画監督・山中貞雄
現在見ることのできる三本の映画のうちの一本。


上映を見にいった日、スケジュールが急に変更になり
その日限りの上映だと スタッフの方に知らされる。
今日見に来て運が良かった、と その時は思ったけれど
見られなかった人もいたわけで
単純に喜んだ自分を ちょっと反省した。


貧乏な長屋が舞台。
働き口の見つからない浪人とその妻。
賭場を開いていた髪結いの男。
質屋とその娘。
物語は雨の上がった朝、長屋で起こったある事件から始まる。


1937年の映画。山中貞雄監督の遺作にあたり、
その翌年、監督は日中戦争で戦死したという。
28歳の若さで。


丹下左膳余話・百萬両の壷」と同じく
とても20代の若者が作ったとは思えない。
画面の構成や 小道具の使い方、雨の描き方などに
驚かされる。
イントロとラストの響きあいに愕然とさせられる。
映画としての格好の付け方、というか
映画の文法、みたいなものが
きちんと飲み込まれていて
「そうそう、こういう風に描いてほしい!」と思うツボを
悉く押してくれる。
渋い。うまい。


いくつかの人生が絡み合うが、
その全てを通底する 浪人の妻の佇まいが
ラストに向かって きりきりと じわじわと 効いてくる。
数日後 長屋に戻ってくる彼女の後ろ姿。
音楽の少ない映画なのに、
そこだけ ばあん、と大きな音が響いた気がした。


日本映画の最高傑作と評する人もいるこの映画。
スクリーンで見ることができて、本当によかった。