映画が全部こうだったらいいのに。「丹下左膳余話・百萬両の壷」

広島サロンシネマで行われている
“見ずに死ねるかニッポン! 昭和映画傑作全集”で拝見。


あああ。
スタッフの方々が口々に
薦めてくださるだけのことがある、よい映画でした。


観終わって、ふと
「映画が全部、こんなのだったらいいのに」と
思ったくらい。


若くして亡くなった天才・山中貞雄監督の
丹下左膳余話・百萬両の壷」。
百万両の隠し場所が塗り込められた壺をめぐる、人情喜劇です。


1935年の映画ということで、
フィルムは時折画面が乱れたり暗転したりしますが、
内容に古さは感じませんでした。


それまでの「丹下左膳」ものとは異なるキャラクターの性格付けなどが
問題になったため、
タイトルに「余話」という言葉が加えられたという、いわくのある映画だとか。
皮肉なことに その原因ともいえる
丹下左膳らのユーモラスな姿、微笑ましい人情劇、
散りばめられた温かい笑いが とても素敵です。
「古い映画」という先入観が邪魔になるくらい、たっぷり楽しめます。
聞き覚えのあるクラシックが使われるなど、しゃれた感じすらするのです。
時代劇なのに。


特に驚かされたことの一つが、省略のテクニックでした。
丹下左膳余話・百萬両の壷」は、テンポの良さが印象的です。
それは、この映画が、言葉ではなく見せることで展開するところに
理由があるのではないかと思います。
しかも、その状況を説明できる最大限の効果を発揮する、
最低限の要素で構成された画で見せる。
肝心な場面では、そんなキレのいいカットがぽん、と入るので
そのたびに「なるほど!」と思わされます。


例えば、
壷の価値を知らず金魚鉢にして持ち歩いている男の子が
丹下左膳から父親の死を知らされる場面があります。
その悲しい知らせを なかなか男の子に伝えられない丹下左膳が、
ついに真実を伝えようとするその瞬間に、
画面が ぱっと変わる。
次に映し出されるのは、男の子の後ろ姿。
こちらに男の子の表情は見えませんが、
見えないからこそ 
その心中いかばかりか、と想像がかき立てられ
悲しみが膨らんでしまいます。
庭と縁側と畳と男の子の小さな後ろ姿という
シンプルでいて考えられた画面の構成にも
唸らされました。
父親の死を伝える決定的なシーンを省略する。悲しみの表情を省略する。
でも、伝わる。
説明し過ぎない、でも 分かりにくいことは全くないという、
そのさじ加減が絶妙です。


省略上手で、見せ方上手。消化不良を感じることもない。
俳優さんも魅力的。
美学がある。
...どの映画もこんな感じならいいのに。


その他にも この映画には
私などには理解しきれない良い点が
いろいろあるようです。
機会があれば、もう一度見たいと思いました。


沢山の上映予定が組まれているサロンシネマ12月のスケジュールは
黒々としています。
まさに、サロンシネマさんの映画への情熱、そして
「一人でも多くの人に、この名作をみてほしい」という思いが
伝わってくるようでした。
「だって、本当に いい映画ばかりですから!」という笑顔まで。


“昭和映画傑作全集”では スタンプラリーも行われていて、
対象作品を3回見ると、4回目が無料という企画も。
高校生以下も無料。うらやましい!
ここにも、熱意を感じます。


「人情紙風船」「鴛鴦歌合戦」など、楽しみなものばかり。
私はこれから、こまめに通う決意をしました。
みなさまも、ぜひに。ほんとに いいです。