分からない。分からない。でも、心を掴まれる。「接吻」

分からない。分からない。でも。


「主人公の気持ちが分かる」などという
甘っちょろい感想を吹き飛ばして
なおも すっくと立つ、孤高の映画。


フィクションだ。
ほとんどあり得ない状況、あり得ない出会い。
でも、それが起こってしまう。それを描いてしまう。
それを、納得させてしまう。
「つぐない」を見たときとは また別の意味で、
映画を観た思いがした。


残酷な殺人事件を起こした男。
逮捕される男をテレビ越しに見た女。
男の弁護士。
出会うはずのなかった3人が出会い、
感情を絡ませ合い、結末へと走る。


女が男へ抱く感情や社会への反感に
観る人は翻弄されるかもしれない。
彼女の、暴走しかねない「感情」に。
それを単純に「愛」と言ってもいいのか、私には分からない。
いや、単純にこの映画を「恋愛映画」とカテゴライズすることを
ためらってしまう。
そう言えることは とんでもなくロマンチックで
幸せなことだと思うのだけれど。
描かれる心理は、もっと微妙で絶妙だ。
出会ってしまった男と女が、
近づきたいのに、ズレている。
近づいてしまったために、ズレていく。


「驚愕」と宣伝されているラストは、
私が思い描いた3つのラストの内のひとつだった。
でも、“あの”行方は、分からなかった。驚かされた。
解釈は それぞれだろう。
誰の解釈も、私を納得させられないかも知れない。
分からない。分からない。でも。


そこに至るまでに 細かく積み重ねられた描写に、
起こった出来事自体に 登場人物の浮かべる表情に
納得させられてしまうのだ。
フィクションである感情を
ぶつけられる、幸福。映画をみることの、幸せ。


広島ではサロンシネマで、
2008年9月19日までの 1週間限定の公開。
でも、1日2回上映。
夕方からの上映もあるので、会社終わりにでも、是非。

私も もう一度観たいと思っています。
特に、あれはなんだ? と思わされた 戸外でのシーンを確認に。