怠惰な日常に、バックドロップ! 「バックドロップ クルディスタン

難民申請が認められず、強制送還の危険にさらされている
クルド人・カザンスタン一家のドキュメンタリー、
「バックドロップ・クルディスタン」を見に
横川シネマへ。


監督は、日本でクルド人一家に出会った野本大さん。


一言で言えば、とても面白かった。
エネルギーあふれるカザンスタン一家、
クルディスタンを探るトルコへの旅、
そして、ラストの言葉。


このドキュメンタリーの視点は、
クルド人一家に出会った大野さんの
クルディスタンって何?」「自分に何ができるの?」という
素朴な位置にあるように思います。
クルド人を救いたい」ではなく
あくまで「仲良くなったカザンスタン一家」と自分、という立ち位置。
なので、冒頭で
クルド人一家のドキュメンタリー」と
書きましたが
実は少し違う。
これは
クルド人一家と出会った日本人青年のドキュメンタリー」
とした方が、正しいかもしれません。


で、この目線が、日本人の多数と一緒。


途中で明らかになる ある事実は
ちょっとスリリングで驚くべきもので、
トルコへの旅では
現地の人々のさまざまな立場からの言葉に翻弄される。
何を言っているのか分からないほどの大声で感情を表現し
新天地でも大音量の音楽でコミュニティを作り上げる
クルドの人の力強さに圧倒され、
トルコでも国連前でも
あくまで笑顔な大野さんに感心したり不思議だったり…
飽きない102分でした。


日本での彼らはひと月ごとに
滞在許可の仮申請に行かなくてはいけないのですが、
その場で拘束・送還という恐れもあるというのです。
家に帰れるか、家族と再び会えるのか、予測は不可能。
現代日本にいながら、急に拘束され移送される理不尽に
胸がつまりました。
緊張感にあふれる、記者会見のシーンにも。
個人の力ではどうすることもできない権力の存在。
ちょっと 伊坂幸太郎の「ゴールデン・スランバー」を思い出しました。


とある事情から? クルド人を難民と認めない日本に対し、
「日本人は かわいそう!」と
カザンスタン一家の娘が叫ぶ姿に 複雑な思いを抱かされ、
マサル(監督)は 信用している」という科白に、
では 彼らは日本人をどう思っているのか、
そして 日本人って世界の中で どうなのかを
見ている間中 考えてしまいました。


でも、そんな中、ラストシーンでカザンスタン一家の父親が
大野さん語りかける言葉に 救われました。感動した。
この言葉が撮影された状況については
[映画芸術]サイトのインタビューを 興味深く読みました。


変わり映えしない日常の隣に、
こんなことが起こっていたのだと 目を覚まさせてくれる
「バックドロップ・クルディスタン」。
解説が詳しいので、予備知識がなくても 事情が良くわかります。
タイトルがかっこよくて、
コピーとポスターなどのデザインワークも いかしてます。



私が見に行った日は初日だったので、
映画の監督とプロデューサーの舞台挨拶が。
少し お酒の入っていた監督は、
自分の他者との関わりあいについて 特に言及されていたのが
印象的でした。
確かに、セルフドキュメントでは
カザンスタン一家と自分の関係=他者と自分の関係を
突き詰めていく傾向にあるのではないかと思っていたのですが
そのことを 監督が今も気にかけていることが
この映画の視点を 
健やかなものにしているのだと感じました。
一方 プロデューサーは、
映画が上映されることの意義について 話されていました。
細かに全国を回る監督とプロデューサーのスピリッツにも好印象。
多くの方が この映画を見られることを願います。