「人生は要約できねえんだよ」伊坂幸太郎『モダンタイムス』

ゴールデンスランバー』と同時期に書かれていて、確かにテーマが似ている。
でも、最初と最後を考え、連載しながら間を埋めていったという書き方からか
なんとなくいきあたりばったりな感じが なきにしもあらず。
もちろん、面白くてぐんぐん読んでしまったけれど。


この夫婦は伊坂作品の中でもユニークな感じ。特に、猟奇的な妻は。


「人生は要約できねんだよ」(略)
「人生を要約?」
「(略)本当にそいつにとって大事なのは、要約して消えた日々の出来事だよ。それこそが人生ってわけだ」

『宇宙の力を考えろ。宇宙の力で地球は動き、樹木は育つ』
『その宇宙の力は、君の中にもある』(チャップリン『ライムライト』より)

「危険思想とは、常識を実行に移そうとする思想である」(芥川龍之介


私はどうも妻・佳代子が受け入れがたかったけれど、
ラストの「妻」「勇気」にほろっとしてしまった。


読後の感想は「大いなる徒労」「愛すべき無益」。


いや、その内側で大変なことが起こったことは分かっているのだけれど、
それを表に出すことは許されない あまりに巨大な“力” “システム”の存在。
物語の最初と最後に 見た目は大きな変化がない。
そこに至るまでの途方もない道のりは確かにあったのに。
物語としては 伊坂作品としては それで正解なのだけれど、
苦労も犠牲もあった道のりを いとも簡単に“無”になってしまうことに、
心地よくも呆れながら脱力してしまった。


たとえば、長方形の紙の 左右の短辺の中央に一つずつ丸い印をつけてみる。
一方が物語の初めで、もう一方が物語の終わりとしよう。
紙をぐにゃんと曲げてふたつの印をくっつける。
二つの距離は、見た目はゼロ。
でも、ふたつの印の間にあった距離は、ぐにゃんと曲がった紙の部分に確かにある。
ある。あるのに、ない。
…ううう。


かっこいいなあ、伊坂幸太郎は。

「あんた、勇気はあるか?」


モダンタイムス 特別版 (Morning NOVELS)

モダンタイムス 特別版 (Morning NOVELS)

やっぱり特別版がいいと思う。
五反田さんにあることが起きた後、その強さを慮るところが伊坂さんらしくって大好きでした。
安藤夫人がかわゆし。